「田んぼで草取りを体感してみよう」

「田んぼで草取りを体感してみよう」

とうとう梅雨入りしましたね。
湿度も温度も、草木の生長にぴったりな時期。

ほとんどの田んぼで田植えが済み、ほっとするのもつかの間、ぐんぐん蔓延る「草」とどう付き合うか・・・私たちも含めて、農薬(*1)を使わずにお米を育てる人々にとっての大きな課題に日々向き合う時期、ともいえます。(よく言われる「雑」草との「戦い」とはあえて言わないでおきます)

稲は強い。
でも、稲以外の「草」は生命力はさらに強いかのよう。
どんどん、ガンガン伸びて稲の成長を妨げます。
できるだけたくさん「米」を収穫したいのなら、水田の栄養を草に取られるわけにはいきません。

というわけで「除草」が必要です。

「除草」の王道は、はいつくばって草を取る。ひたすら取る。これに限ります。

草を取るだけでなく、水田に空気を送り込み、稲の根っこを刺激して成長を促すため、重要だと言われている作業ですが、腰をかがめてひたすら土をかき回す作業は、かなりの重労働です。

ちなみに、この草取り風景は、かなり前から見られたもののようです。
万葉集の中に「田草引く」という言葉があったとのこと。
西暦700年代前半のことです。
それまでは自然にまかせていたものが、安定して収穫を得る必要がでてきた頃です。

さて除草とは、草が伸びる時期-梅雨の時期から真夏の炎天下に行うものです。ひたすら下を向いて行う重労働の上、背中にじりじりと照りつけるお天道さまが追い打ちをかけます。

しかも、田植え後から穂が出る時期までに、3度行う必要があります。
1度目の草取りはなら、稲はまだ小さいのでまだ牧歌的です。
3度目の草取りなると、酷暑の中、成長したツンツンした稲に顔やウデを切りつけられ、辛さもクライマックスです。

そんな辛い仕事を軽減すべく発明された画期的な農業用具があります。その名も、「回転中耕除草機」(写真1枚目)。別名を「田打ち」。

地球に向かってかがむことなく、手で押したり引いたりするだけで草が巻き取られ、土中に空気も入れることのできる、というスバラシイ農業用具!

1892年(明治25年)のこの発明は、「わが国稲作史を飾る重大発明のひとつ」だそう。

というのも、それまでは素手や、雁爪と呼ばれる鉄の爪のようなもので草取りをしていました。

素手では1日せいぜい5畝(=5アール)のところが、田打ちでは2反(=20アール)(*2)と、作業効率が4倍にもなったからです。

私たちの田んぼでは、この「画期的!!!」と言われる田打ちで除草(*3)をしています(写真2枚目)。

作業効率が4倍!と言われても、かなりの重労働です。
この田打ちで土と草をかき回しながら、稲の間をがんがん進む作業です。縦が終わったら、横もあるのです。

1日2反!と言われていますが、私には無理です。。。(体力的に)
2反の田打ちの縦横を一人でするとしたら、いったい何日かかるだろうか。考えただけで辛い・・・。

田打ちを水上をすべらすだけなら以外と早く進みますが、目的は「草を反転させ、土の中に入れ込み、空気も入れること」です。この目的を達成するためには、かなりの押す力が必要です。

2反とは約20m×100mの田んぼ。2,000m2です。600坪です!
1往復だけでもふーふーです。

ほんの50年ほど前まで、この仕事は「子どもの仕事」でした。
近所のおじいさん(70代)によると、「学校から帰ったら父母は田畑でおらず、『どこどこの田んぼを田打ちしておくこと』との置き手紙があった」とのこと。

「田打ちが終わらんことには遊びに行かれへんかったから、必死で終わらせた」とおっしゃります。

彼らが小学生ぐらいのころ、戦後すぐの頃のこと。

ちなみに、時がたち、彼ら「スーパー小学生」は今や「スーパーじいさま」。近所の70代、80代のじいさまがたの現役っぷりは、このころに培われたものだと納得させられます。。。

ところが、その後登場した除草剤が、稲作の労働風景を一変させます。

数字を見ると劇的です。

今から67年前の1949年、除草にかけた時間は1反あたり約50時間だったそうです。
1日8時間、朝から晩まで働いたとして約7日。
(でもこれは、当時の「スーパー小学生」がわんさといた時代のことなので、今の私たちが同じことを行ったとしたらもっとかかるはず)

それが除草剤の普及によって、1.5時間に減ったのです(2004年)。
34分の1です。

今の除草とは、1反あたり数キロの粒状の除草剤をぱらぱら~とまくこと。
除草剤は溶けて効果を発揮し、草なんてほとんど生えません。
あの重労働は比べものにならない軽作業でのこの効果。

今の農村に、60年前のようなスーパー小学生はもういないのです。
それどころか、稲作従事者の平均年齢は70歳(農業の中でも高齢化が一番著しいのが稲作です)。除草剤なしでは、国内消費をまかなえないのは一目瞭然です。

農薬の環境面、健康面、生態系への影響について考える際には、一概に「農薬悪し」と言えない現状についても考える必要がありそうです。

先日、留学生の方々が私たちの田んぼを訪れ、田打ちと手による除草を体験していただきました。いわゆる「一流大学」で主に経済学を専攻する修士課程の留学生や研究者の方々による、「日本の農村の現状の体験」が目的です。

そのうちの一人の方の意見をご紹介します。

「有機農業は非効率。金持ちのための贅沢でしかない。貧しい人々を食べさせるためには農薬と化学肥料が必要。」

緑の革命でも唱えられた、賛否両論の意見。

私は「否」の意見です。
少しでも農薬にたよらずに、食べ物を作っていく世の中になっていく必要があると思っています。
世界から「貧しい人」を減らすためにも。

もちろん、一昼夜では無理です。
どれぐらいかかるのだろう。
賛同する人が少しずつ増えれば、孫たちの世代にはちょっとは実現できているのだろうか。

こんなことを考えながら、田打ちに精を出します。

ちなみに、ちょっとした「不純な動機」もあります。

動作的には、スポーツジムのベンチプレス(?)に似ている田打ち。
バストアップになる、と言われている(?)やつです。
シェイプアップも魅力的ですが、何より、からだの節々を鍛えて「老化」を防いでくれるんじゃないかなーなんて。(近所のじーさまがたの軽い身のこなしは、そんな明るい希望を抱かせてくれます!)

田打ちだけでなく、万葉時代からの歴史ある除草法、「地球をなでまわす」作業は、瞑想にもなり、なかなかすてきで贅沢な時間です。
また、田んぼと仲良くなった後の肌は、つるつるする気がします。
手と足だけでなく、顔にもつけたらつるつるになるじゃないかなーと。

今から夏の時期、全国あちこちの田んぼで、草取り体験が行われています。(「耕し歌ふぁーむ」でも2016年は2回開催しています。詳細は*4をご覧ください)

有機の田んぼでの草取りを経験したことない方は、今の「旬」の時期に一度、近くの田んぼでの草取りに汗を出してみませんか。

経験者の方々は、未経験のお友だちを誘って一緒に草取りをしてみませんか。

「農」の現状について実感し思いを馳せる、いい機会になると思います。

もちろん硬いこと抜きでの参加も、どこの企画でも大歓迎なはずです。
きれいな空気の中カラダを思い切り動かすことは身も心もリフレッシュになります。何より次から食べるお米がおいしくなるはずです。

農薬を減らすためには確実に必要な作業(*5)。
そして、この辛く厳しい作業を行うことのできる人は、もう確保できないという現状。
さらに、この作業どころか、「農薬パラパラ」の恩恵を受けてですら、農業に従事する人々が高齢化し、減少しているという現状。

昔の「スーパー小学生」並には無理だとしても、少しでも体験し、実感する人が増えることで、食や農に関する違う風が吹くのでは、と期待して、今年も「田んぼの草取り体験」を企画する私たちです。

===
(*1) 稲作での「農薬」には、病気や害虫を防ぐ目的の農薬と、除草剤と言われる除草目的のものがあります。防除目的のものは、種もみの時(種子消毒)から育苗時(播種前と田植え前の2回)、田植え後から収穫前までに数回施します。
除草目的の農薬は、田植え後に何度か施されます。

(*2) 1反は10a(アール)のこと。約1000m2、10mx100mぐらいの土地。

(*3) 草を取るだけでなく、土の中に空気を入れ浅く耕す作業を「中耕除草」と呼ばれています。

(*4) 耕し歌ふぁーむでは、2016年の草取りを6月19日と7月10日に企画しています。6月19日はおかげさまで満員御礼ですが、7月10日はまだ空きがありますので、1日体験をご希望の方はご連絡ください。

(*5) 有機栽培では他に、アイガモ農法や米ぬかなどで草を管理する方法がありますが、草をゼロにするのはかなり難しく、除草剤なみの効果、利便性、経済性はないと一般的には言われます。

*この記事は2年前に書いたものを少し手直ししたものです。

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