農薬や化学肥料は、当農場では使っていません。
その理由は、以下のようなものです。
第一の理由は、「自然界のバランス」を壊してしまうことが多いからです。
畑では、肥料分が多いところには虫がたくさんついて食べられてしまいます。肥料が多すぎるのは自然界のバランスが崩れるからでしょうか・・・自然に還してバランスをはかろうという自然界の計らいだとも思えます。
また、農薬を使用していると、悪い虫だけでなく、益虫と呼ばれる「悪い虫や菌を食べてくれる虫」なども殺してしまいます。バランスが崩れた結果、土は不健康になり、おいしい野菜もとれなくなってしまいます。
二つ目の理由は、農薬や化学肥料自体が、食べる人にとっても、使用する農業者にとっても、使用される環境にとっても、未来世代にとっても、悪影響を及ぼすものと考えているからです。
本来、元気でいるための食べものなのに、食べる人が不健康になっては本末転倒。
しかも、農業者の健康への影響も大きい。農薬の多用による農業者への健康被害の事例は枚挙にいとまありません。食べものを生み出す農業者の健康な暮らしも確保しないと、農業自体、食べものの生産自体がサステイナブル(持続可能)ではなくなってしまいます。
さらに、農薬使用によって環境や土地を疲弊させてしまったら、未来世代が食べていけなくなります。田んぼも畑も環境も、未来世代からの預かりもの。未来をになう子どもたちに、おいしい食べものを生み出す土地と環境を、笑顔で手渡したいと思うのです。
そして最大の理由は、やはり食べる人にとっておいしいし、からだが喜ぶから。
土のバランスがとれていて、無農薬、無化学肥料でもきれいに立派に育ったお野菜はもちろんのことですが、バランスが少し崩れて虫食いだらけだったとしてもおいしいんです。
一口食べると、土の香りが広がり、シンプルだけど味わい深く、滋味あふれる野菜の味は、やみつきになります。
そんなわたしたちにとって、暑い時期の虫対策は最大の難関です。コンパニオンプランツ、自然の素材を使った防除方法、最後は「必殺テデトール」(手でつまんでつぶす!)、「メヲツブール」(お野菜少しなら虫さんたちと共有」といったアナログな方法も含めて、あの手この手を駆使し、日々、自然界のバランスの調和を目指して畑に向かっています。
肥料は、当農場の裏山の木を燃やした木灰、籾殻くん炭、米ぬか、近隣のごま油製造者さんからのゴマの油かす、椎茸農家さんからの廃菌床、広島の牡蠣の殻などを適宜使用しています。
ただ、今の農業の現場では「農薬を使わざるを得ない」現状であることも確かです。
農業を生業とするのなら「効率」を求めないと、1年と続けていけないからです。
「農業」はとっても夢のある、すてきな職業です。
夢を抱えて就農する若い人も多く、その中でも、「有機」や「無農薬」を志す人も多いと思います。
それでも、あきらめざるを得ない人もたくさんいらっしゃいます。実際、あきらめた若者に何人も出逢ってきました。
また、あきらめないために試行錯誤の中、農薬を使うことを選択する人もいます。
ただでさえワーキングアワーが長い農業。熱い想いでお世話したお野菜が、虫や病気で全滅してしまえば、無収入となるだけでなく、投資した分赤字になります。あれこれ試行錯誤するより、農薬を使えば、困った虫や病気の被害から(そのときだけであっても)逃れられ、とりあえずは「無収入&赤字」という状況だけは回避できます。
また、「タネについて」でも記していますが、農業者の高齢化が進む現状では、無農薬・無化学肥料で現在の生産量をまかなうのは不可能です。こんな世の中だからこそ、農薬の使用不使用いかんにかかわらず、その他スタイルの違いがあったとしても、農業を担っている人々すべてに敬意を払い、つながり、お互いに学び合っていきたいと思っています。
本当は、食べる人にとって安心、安全であることはもちろん、畑に向かう農業者にとっても、私たちが暮らす環境にとっても、そして、未来世代にとっても安心、安全な「農」が一番と思っています。そんな思いを共有し実践する生産者さんや、そんな生産者さんを応援する消費者さんは確実に増えてきています。
それでも今は、やっと芽がでたところ。消費者さんの心強いエールを受けて、農薬や化学肥料をひとつずつ手放していく、そんな農業者さんが増えていくといいな、と思っています。
そして、食べ手も作り手にとっても「安心・安全」な世の中に一歩一歩近づくために、たくさんの人とつながりながら、楽しく試行錯誤をしていきたいと思っています。